
教科書の右上にあった写真
そのページには東西に分断された世界の情勢が書かれていた
写真の下に何か落書きしたのを覚えている
炭鉱町に育った僕は低い山に囲まれた谷間の町が世界のすべてだった
住民全員が炭鉱関係者とその家族、国道に出るまでバスで三十分くらいかかる
排気ガスの匂いが刺激的でバスが来ると追いかけた
ニュース映画でベルリンの壁を視察するケネデイを見た
大空輸作戦の飛行機を見た
東から西へ脱走を企て有刺鉄線にもたれかかったままの市民を見た
関連する事を見聞きしても必ずあの写真が蘇えった
何かの拍子に心の底から浮かび上がりそして沈んでいった
理解もせず結論も出さず心の底に沈み沈殿している
あの写真の中でヒトがうごめいている映像が流れた
歓喜し、歌い、踊り、抱き合っている
あの写真の正体が分かったような気がした
あの写真の中に自分が立った
あの映像の中に自分もいた
同じ空気を吸った
壁をハンマーで砕いているヒト、梯子をかけて登っているヒト
壁を手のひらでなぞるヒト、壁沿いに歩き続けるヒト
壁に出来た小さな穴から兵士がこちらを見ていた
何も解決した事にはならなかった
ひとつの出来事が終わっただけだった
足元の溶けない雪が風に吹かれてどこかへ飛んだ